俺の人生 消滅編

人間の記憶を消す装置を開発した、71歳の春。

世界中の人間の脳から、嫌な記憶を消して回る。

10年間の旅路の果て

81歳の冬、トラウマを抱えたある少年の記憶を消すと同時に

己の死期を感じとる。

自身の死が、誰かのトラウマになってはいけないと

遺書を残し、所有者のいない無人の森に分け入る。

一晩中歩き続け、加齢と疲労により、心肺停止。

前のめりに、倒れる。

遺言は

「俺が覚えてるから、お前ら忘れろ」

落ち葉をベッドに

死んだように眠っている。

いや、逆だ。

菌や、ウイルス、虫や、動物、植物たちに、栄養を分け与えながら

細胞分解。
腐敗。
白骨化。

100年後、骨の中のカルシウムが酸化し、溶け切り、完全に土に還る。

消滅。

合掌。

それから俺が死んだ場所には、春が来るたびに

色とりどりの花が咲くとか、咲かないとか、咲くとか。